時速20キロの風

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一気読み必至! 「邦人奪還-自衛隊特殊部隊が動くとき-」伊藤祐靖 新潮文庫 2023.3

  ノンフィクションだとNGだらけで書けないから、フィクションにしてみたした、という感じなのだろうか。中にいた人だから書ける自衛隊の内部事情やディティールのリアリティ、というだけではなく、みんながテレビで見てよく知っている衆目の中の要人暗殺事件についての驚くべき解釈もあり、びっくりが続く。
 また法体系における自衛隊の存在に対する矛盾についても考えさせられる。
 このあたりは、リアルな事実なのだろうから、素人が国防について何か語りたければ、俺たちのことをよく知ってから言え、と中の人は思うんだろう。

 小説なのでドラマ仕立てなのだが、ウケをねらったお約束の感動場面やとってつけたような恋愛要素もなく、感情は抑制され、作戦の追行に密着したドキュメントのように物語りは進む。

 ドラマらしい部分とすれば、政治家や自衛隊上層部と現場の軋轢の場面だろうか。これも、あらゆるお仕事ドラマで昔から描かれてきたまんまの「組織あるある」な場面だが、圧倒的なリアリティの中で進められる情けないまでの「上司あるある」「政治家あるある」に、人間という存在の限界すら感じる。

 あくまでも小説であるし、実存する特殊部隊が実戦に参加したことも実際にはない、というところで、ドキュメントのようなフィクション、であることには変わりはないが、「知らなかったこと」のいくつかを知る機会にはなる。

 自衛隊が、より軍隊に近づくのではなく、サンダーバードのような「国際救助隊」を、本名として名乗れる時代になればいいのだが。

 

と、のんきなことを書いていたら、陸上自衛隊のヘリが消息不明のニュース。陸将である幹部自衛官が登場していたという。そんなニュースの続報もないまま、その2日後には中国軍機が台湾海峡周辺に侵入したという報道。

 SNS界隈では、ヘリは中国による撃墜ではないかという憶測も出回りだしている。

本当は何が起こっているのか。政治は何かを隠しているのか。マスコミは何かに加担しているのか。実は、単なる事故にすぎないのか。

 いずれにしても、自衛隊が「国際救助隊」になる日は、まだまだ遠いのかもしれない。

 ちなみに、ご本人のツイッターによると、麻生幾氏の今夏刊行予定の新作が、第8師団による宮古島防衛がテーマなのだそうだ。新刊を、娯楽として気楽に読める夏であればいいが。

 

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