読書メモ
オセロゲームのように、白一色になっていた盤面が、ひとつの駒が置かれたことで、パタパタと黒一色に変わる。さらにもうひとつの駒が置かれたとたん、今度は白一色に。 そんな感じの小説である。 面白い。 ミステリーではあるが血なまぐさい場面は一切ない。…
すらすらと読める。テーマはとても重いのだが。 頚損患者への治療やリハビリのシーンがあるが、かなり正確な描写がされれているようだ。 フィクションのストーリーの中に、ニュースで見聞きして記憶にある現実の出来事が時折挿入されていて、実はこの物語の…
尾上縫をモデルにしたミステリである。が、全編、バブル経済の頃の世相がさまざまに描かれていく。当時の様子を振り返りながら、なるほど、こんなことだったか、と今更ながらに、あぶく銭に踊らされた人々の心情を考える。 本書は、フィクションである。だが…
大人の童話のような読後感だった。 都会の中に隠れるようにある小さな森の奥の小さな喫茶店。 喫茶店はおひとりさま専用だという。 一風変わったマスターが作る、一風変わった料理が、訪れた客の心を癒やす。 複雑な話ではないが、誰もが多かれ少なかれ、共…
帯の文句は 『貌の女性判事と謎多き殺人鬼 恋で終われば、この悲劇は起きなかった』 初読の作家さん。読み方がわからない。いちしずく?ひとしずく? 漫画家とか、ラノベ作家のような名前だけど、重い深いお話です。 哀しい、せつない、そんな感情が喚起され…
昔、泌尿器科の医師の講演を聞いたことがある。わりと専門的なテーマだったのだが、講師の自己紹介で、「〇〇病院の泌尿器科の〇〇です。私を呼ぶときは、かならず泌尿器科の、と呼んでください。よく病棟で看護師さんに「泌尿器の〇〇先生」と声を掛けられ…
2021年の本屋大賞2位ということで、今春文庫に入って気になっていた。 図書館にオーダーして、読んでみて、とてもよかったので文庫を買った。 どう良かったのか、というと、しばらくしてからまた読みたくなる気がしたからだ。 サスペンスやミステリーでは、…
1977年公開の映画「八甲田山」は、父親に誘われてふたりで観に行った最初で最後の映画だ。高度経済成長期を支えた猛烈サラリーマンだった父親は、土日は接待ゴルフでほとんど家にいたことがない。夏休みの家族旅行も、途中で合流して、一足先に帰る、という…
ノンフィクションだとNGだらけで書けないから、フィクションにしてみたした、という感じなのだろうか。中にいた人だから書ける自衛隊の内部事情やディティールのリアリティ、というだけではなく、みんながテレビで見てよく知っている衆目の中の要人暗殺事件…
制作、演出、撮影、照明、録音、記録、調音、効果、美術、衣装、など。必殺を作ってきた裏方の皆さんに聞き取りを行ったインタビュー集。 これが面白い。 テレビでよく見たあんなシーン、こんなシーンも、これだけの人たちが、さんざんすったもんだして、知…
本屋大賞を受賞し、累計100万部。文庫の上下巻は治まる化粧箱に入ったプレゼント用バージョンも売られていた。大いに話題になっていたのは知っていたが、不登校になっている中学生の話だと聞いて、どこまで共感できるのか、そのくらいの年代の子たちが読めば…
弓道部の女子高生を主人公にした青春小説をさらに。 今回はミステリー作家の我孫子武丸。基本線は青春小説なのだが、ミステリーの味付けもアクセント程度に入っている。弓道に関する知識もたっぷりと披露される。 「凛として弓を引く」との違いは、こちらは…
本屋で、これの第2弾である文庫本「青雲篇」が新刊として平積みされていたので、まずは第一弾を、と思って読んでみた。主人公がひょんなことから弓道と出会い、道場に通い始めて~、というお話だが、派手な事件が起こったりはせず、主人公であるまったくの初…
今週のお題「最近おもしろかった本」 ファンタジーというには描かれる現実がシビアすぎる。ホラーというには少年と少女の傷だらけの夏が切なすぎる。ノスタルジックな情景の中で展開する、少年と少女の最後の夏休みのお話。物語の仕掛けを読み解くことを放棄…
小泉今日子さんがこの本を読んで、ネットフリックスのドラマ「新聞記者」で赤木雅子さんの役を引き受けたものの、赤木さん自身に了解をとっていない演出があることで役を降りた、というインタビューをネットで読んだ。小泉今日子さんは、演技者として優れて…
文庫の新刊。続編の「コロナ狂騒録 2021五輪の饗宴」も同時に刊行されている。 本書では、クルーズ船の入港騒動からマスクの配布あたりまで、不定愁訴外来の田口先生をはじめ、チーム・バチスタシリーズのおなじみの面々が、コロナに振り回される様子を描く…
冒頭で、自転車で旅をしている青年(若めの中年?)が出てきたので、それで手にした小説である。著者の作品は、映画にもなった「ちいさなおうち」を読んだことがあった。 この冒頭の自転車旅の若めの中年、が主人公というか狂言回しの役目で、大雨の中、雨宿…
久しぶりの、半徹一気読みだった。 落合博光は中日をどう変えたのか。というサブタイトルがついているように、中日の監督時代の落合について書かれたスポーツノンフィクションである。 中日ファンではないし、落合が中日の監督だった頃は、子どもが小さくて…
年代的に、角川文庫や角川映画にはずいぶんと世話になったんだなぁ、と本書を読みながら思った。しかし、本書で振り返れば、熱心に劇場に通った角川映画も初期の一時期だけだったようだ。金田一耕助ブームの期間とその後少しだけ。 当時はその宣伝手法ばかり…
新聞の書評で見かけた。まったく知らない作家だった。 読んでみて、これは面白かった。ハラハラドキドキのミステリーとか、そういうのではなく、静かな読書感である。設定そのものが、非日常的でファンタジー感もある。が、ファンタジーという語感から想像さ…
たまたまなのか、こういう傾向のマンガが多いのか。 読んだのは、荒廃した高校のいじめの話で、出てくる悪い奴が、いじめというような陰湿なものではなく、ただの粗暴犯で、たとえば銃器を持ったロシア兵が、武器を持たない一般のウクライナ人を虐殺するかの…
この本が書店で平積みになっていたのは覚えている。先日ブックオフで300円で売られているのを見た。 内容は、これはとんでもなく興味深いルポルタージュだった。綿密な取材の跡が見え、いわゆるタレント本や暴露本のような類ではない。 読む限り、さもありな…
かれこれ35年も前のことだ。いよいよ残り少なくなってきた京都での学生生活をどんな風に過ごそうかと考えつつ、卒業旅行の資金もためなければ、ということで、「記憶に残る珍しいバイトをして小遣い稼ぎもしよう」と欲張った計画を立てた。 当時は、ネットも…
これはとんでもない小説に出会ってしまった。「ハコヅメ」を見て、交番勤務の婦警さんもたいへんだねー、と微笑んでいた笑顔が凍り付いてしまった。 小説なのだ。警察小説だ。冒頭、驚くべき事件が起こる。しかし、単純に見える事件には謎がありそうだ。その…
「万引き家族」「海街Diary」の是枝監督が、カトリーヌ・ドヌーヴを主演に、2019年に制作した日仏合作映画「真実」の、構想から、脚本執筆から、出演交渉から、ロケハンから、撮影から、クランクアップまでの、映画作りのすべての道のりを綴った制作日記であ…
今週のお題「読書の秋」 読書の秋なのだが、スマホのマンガアプリを3つほど入れてみて、それにすっかり時間を取られてしまっている。どれも似たようなサービス形態で、連載マンガの何話かまでが無料で読めて、それ以降は、それぞれのサイト独自のポイントを…
これもアマプラで読める小説である。タイトルママの内容で、タイトルママに話は進むのだが、わかっていてもやられてしまう。心の乱れはあるものの、特段哲学的にややこしい死生観を語るわけでもなく、「君の膵臓を食べたい」の世界に近い気がする。 スマホで…
事件から20年が経ち、犯行現場である被害者宅が取り壊されるというタイミングで書かれたもので、著者にしては、同じ事件をテーマにした前著に続く続編である。 この事件で警察の初動に問題があったことは多くの指摘がされている。あまりにも多くの遺留品があ…
北海道の比羅夫という駅には、駅舎を用いた民宿が実際にあるらしい。 駅舎といっても廃駅ではなく、JR函館本線の現役の駅で当然列車も停車する。「駅の宿いらふ」という。 さて、本書である。最初はタイトルを見て、終電が去った駅で野宿しながら旅をする話…
人気作家が売れなくなると書くのが小説指南書だとか聞いたことがある。それにしては、タイトルが弾けてるなぁ、と思って読んでみたら中身も弾けてた。 Ⅰ部の小説家になろう編では、教科書的な内容ではなくキャラ設定から空想を広げていく作者オリジナルの方…