時速20キロの風

日々雑感・自転車散歩・読書・映画・変わったところで居合術など。

これって小説のフリした暴露本?「女警」古野まほろ 角川文庫

 これはとんでもない小説に出会ってしまった。「ハコヅメ」を見て、交番勤務の婦警さんもたいへんだねー、と微笑んでいた笑顔が凍り付いてしまった。

 

 小説なのだ。警察小説だ。冒頭、驚くべき事件が起こる。しかし、単純に見える事件には謎がありそうだ。その謎を主人公が解き明かしていくのだが…。

 その過程には、推理ドラマにありがちな捜査のシーンや、追跡、アクション、そして物語に色を付けるための、主人公にまつわる蛇足のようなサイドストーリー、はなにもない。主人公の独白や関係者からの聴取目的の会話の中で、ノンフィクションのごとく語られる警察組織における女性警察官にまつわる問題。それも、古き日本のムラ社会の特性が煮しまったかのような警察という男社会の中での「女」に対する差別的で不当な扱い、その実態から目をそらした耳ざわりの良さだけのスローガン。そこで明かされる様々なエピソードや実際に女警として働いた人たちの呪詛に近い叫びは、たぶんフィクションではないのではないか。実際にキャリア警察官として内部にいた著者が見分したリアルが実に生々しく表出されていく。

 前半、警察組織の暴露が続き、ドラマがまったく動かなくてかなり動揺するが、後半に真相の一旦が読めてしまう場面があり、そこからは怒涛のように主人公の感情が加速していく。

 そもそも婦人警官、略して婦警さんという認識で、女警なる言葉はこの本ではじめて知った。パソコンでも「婦警」はすぐに変換で出てくるが「女警」は出てこない。その言葉を知らしめて、警察という濃厚な男社会で生きる「女」の警察官の悲痛な声を公開しただけでも、価値のある小説だと感じた。

 たまたまだったが、とても衝撃的な読書体験だった。