時速20キロの風

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無双直伝英信流居合 敵の害意を察知し、機先を制する

 無双直伝英信流の初伝の最初の業は「前」という。居合の基本中の基本であり、居合の技術の要素がすべて含まれる。書道でいう永字八法のようなものである。

 「前」では、正座をした状態から、膝立ちをしていきなり水平に、さらに垂直に斬り下ろす。その間、正座から膝を立てた状態を維持する。立ち上がったりはしない。状況からみても、立ち上がったり、刀を抜いて構えをとる時間的余裕はない。その瞬間に相手に斬りつけられてしまう。正座から膝立ちするその動作の中で、刀を抜きそのまま斬りつけるのである。

 

 この業について、初心者はこのように教えられる。対座した相手の害意を察知し、機先を制して抜き付ける。つまり後の先、先制攻撃ではなく、あくまでも相手の害意に対して防御として使う業だと。

 

 そもそも、なんで侍同士が、腰に大刀を差したまま正座して向かい合ってるのか、どういう状況なんだ、という演劇的ディティールにこだわると混乱するので、ここは、あくまでも「武術に関する状況設定問題」として、「もしこんなときどうする?自分を守って反撃することできる?」と問われている、と解釈した方がよい。

 

 「前」の場合は、害意を示した相手の行動は、やおら立ち上がり、刀を抜いて、斬りかかってくる、というものだ。本来、刀とはそうやって使うものだから。

 こちらとしては、相手に対して害意はないわけだから、談笑していた相手が突然立ち上がって刀を抜いて上段に振りかぶったりしようものなら、なすすべはない。びっくりして「あわわわ」と腰抜かしている間に、脳天を斬りつけられる。

 

 なので害意が見えた瞬間に、腰の刀を一閃させるのだ。相手は何が起こったのかわからないまま横一文字に斬りつけられ、「あわわわ」となった瞬間に真向から斬り下ろされて万事休す。

 

 「この設定は、相手が居合を知らないことが前提になっている」と教えてもらった。相手が居合遣いだと知っていたら、刀を抜いてから斬りかかろうとはしないだろう、ということだった。

 

 ※このあたりは、流派、道場、個人によっても「諸説ある」話なので、私はそう教わった、ということです。という断りが、居合を語る際には必ず必要です。

 

 というわけで、突然話題が変わるが、「敵基地攻撃能力」である。

敵がミサイル発射の準備をしているといった「害意」を察知して、その前に基地を叩く、というようなことを読んだ気がする。居合でいう「後の先」である。この「害意」を正確に知るのは、難しそうだ。そこが納得されなければ、先にいきなり斬りつけてきたのはあいつの方だ、となってしまいかねない。

 かといって、黙って正座したまま、むざむざ斬り殺されていいわけでもない。

結局は、あいつもこいつも、どいつも私も、刀など持たぬのが一番ということなのだろう。

 来年は、世界中のどの地域にも、そして誰にでも、良き年が来ることを願う。