時速20キロの風

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読書メモ 「私は真実が知りたい」赤木雅子+相澤冬樹(2020年文藝春秋)

 小泉今日子さんがこの本を読んで、ネットフリックスのドラマ「新聞記者」で赤木雅子さんの役を引き受けたものの、赤木さん自身に了解をとっていない演出があることで役を降りた、というインタビューをネットで読んだ。小泉今日子さんは、演技者として優れていると思っていつもドラマや映画を楽しんでいるが、その書評も面白く、彼女が書いた書評に影響されて紹介している何冊か読んだことがある。

 そんな頃に本書をたまたま見かけて、あぁ、キョンキョンが読んだっていうあの本か、という気軽さで手に取った。

 

 安倍晋三氏の国葬儀で世間はにぎやかだが、そのタイミングで手にしたわけではない。たまたまだ。だが、この本を読むにはなかなかよいタイミングだったかもしれない。

 

 このタイミングでこの本を読んだ感想としては、安倍晋三氏も、政治家としてはぼんぼんで、わがまましすぎやろ、他にもいろいろガキなことやってるやろな、と思ったし、昭惠夫人も単純すぎる。どちらも大金持ちで、日本有数の「ええとこのボンとお嬢」だから、銭金に執着はなく、そういうレベルの下品さや下衆さはないだろうけど。

 彼らに浴びせられる毀誉褒貶は、ひとつひとつはその通りなんだろう。円柱を、横から見れば長方形、上から見れば円。右と左は、それぞれの視界のみで、四角だバカやろう、円だアホ、と言い合ってるにすぎないと思っているが…。

 

 それにしても、である。

 

 あまりにも、情けない。財務省の連中が、である。

忖度というより、保身と卑怯とずると下衆のオンパレードだ。あまりにも醜いし、情けない。

 

 皆さん、子どもの頃、愛と勇気を声高に叫び、正義を守るヒーローアニメとか特撮とか観なかったのか。好きな特撮ヒーローとかいなかったのか? 我々の世代では、毎日のようにどこかのチャンネルでやっていた時代劇や刑事ドラマは観なかったのか?官僚になるために、勉強ばかりして、テレビドラマなど観ていなかったか。

 観ればよかったのに。

 それらのドラマには、毎回、毎回、あなたたちのような人が出てきて、番組後半になれば、三味線の糸で吊るされ、鋭くとがった簪で延髄を貫かれ、派手な立ち回りと共に血しぶきを上げて大刀で叩き斬られていた。

 あるいは刑事ドラマの中で、圧倒的ににかっこよく、正しく、強く、漢だった石原裕次郎や渡哲也からの軽蔑に満ちた冷たい視線を浴び、彼らの目配せひとつでで、解き放たれた獣のように走り出す松田優作萩原健一や、当時女性にキャーキャーいわれていたあまたのイケメン人気俳優たちにぶん殴られ、蹴り飛ばされ、みっともなく、みじめに泣きながら、彼らのひざ元に崩れ落ちて手錠をかけられた、そんな役をわざわざ必死にやるんだなぁ。死ぬほどかっこわるいのに。それがリアルってやつなのか?

 

 この本は、読んでいて虫唾が走る。でも読書としては不快ではありません。それら醜いクズたちに精一杯対抗しようとする、なんの力も権力もない未亡人の揺れ動くさま、踏みつぶされそうになりながら、必死に立ち上がる様は、淡々とした筆致の中で感動的である。そして、同じく何の力も権力もない市井の人たちによって、巨大な権力の横暴がが退けられた事実を知る。

 

 そういえばモリカケサクラで世間が騒いでいた当時、Twitterでも四角だという群と円だという群が、激しくののしり合っていた。思えば、極端なネトウヨと、極端なブサヨが、当事者が持っているような事実の何も知らぬまま、肉が好きか、魚が好きか、巨人が好きか、阪神が好きか、レベルの論争をしていたに過ぎないのだが。

 

 本書には、当時の役人の態度や言動が、客観的な視点で、リアルに、かつ、実名で書かれている。当人らはその後、財務省内で異例の出世をさせてもらったらしいが、家族がうっかり本書を読めば何を感じるのだろうか。まぁ、何を思ったところで、命を失うよりましだろうけど。

 

 赤木さんが、佐川元理財局長に損害賠償を求めた裁判は、11月25日に判決が出る。

佐川が、公務員としての矜持も、人としての倫理も捨て去ってまで守ろうとした後ろ盾は、いまはもういない。