時速20キロの風

日々雑感・自転車散歩・読書・映画・変わったところで居合術など。

読書メモ 駅に泊まろう 豊田巧 光文社文庫 2020年9月

 北海道の比羅夫という駅には、駅舎を用いた民宿が実際にあるらしい。

駅舎といっても廃駅ではなく、JR函館本線の現役の駅で当然列車も停車する。「駅の宿いらふ」という。

 さて、本書である。最初はタイトルを見て、終電が去った駅で野宿しながら旅をする話かと思ったが、その比羅夫駅の宿を舞台にした小説である。

 あとがきのよれば、作者も実際にこの宿に泊まったことがあるらしく、駅の宿の描写は旅のガイドブックのように正確らしい。ただし登場人物は完全にフィクションで、そこで起こる物語も、肩の凝らないかわいらしいお話だ。

 作者は「電車でGO!」というゲームの制作に関り、その後小説家に転身。代表作に、少年向けの鉄道小説「電車で行こう」のシリーズがある。鉄オタの息子の愛読書だった。

 とはいえ、本書の鉄分はさほど濃くはない。鉄道旅の入門編程度の鉄分である。なので、鉄オタにはあっさりしすぎかもしれないが、鉄道そのものが主題ではないために、オタクくささやマニアックさはなく、鉄道ファンも、そうでない旅好きの方にも、どなたにでも楽しんでいただける、という感じである。

 私もかつて、冬は鉄道で、夏はオートバイで、北海道は何度も訪れたので、懐かしい気持ちで読むことができた。

 同時に読んでる本が、あまりにも怖い本なので、この小説が持つ「ほんわかさ」は心の癒しになる。

 この夏も、旅はおあずけのようなので、このかわいらしい本で、かわいらしい人たちと出会って、しばし旅気分を味わってみるのもいいかもしれない。