時速20キロの風

日々雑感・自転車散歩・読書・映画・変わったところで居合術など。

居合 左手の働き

 居合は左手で抜けと言われる。初心の頃は、左手で鞘をつかみ、右手で柄を握り締め、力任せに引っこ抜く、という形になりやすい。そうやって引っこ抜いても、筋力自慢であれば、ブォーンと風切り音を立てて刀は走る。

 

 が、それでは業(わざ)にはならない。単純に言えば、歳をとるなどして筋力が衰えれば、抜き付けの勢いも衰えてくる。

 では、筋力に頼らず、業として鋭い抜き付けを身につけるためには。

 

 このあたりも基本なので、何度も指導され頭ではわかっているのだが、右利きであれば1キロ弱の鉄の棒を右腕を極力使わず振り回せ、というのは無理な相談だ。どうしても右手で引っこ抜いてしまう。

 

 長年の課題だが、なかなか身体に着いた癖は治らない。そこで、居合の左手の使い方について、というやたらマニアックなテーマの講習会に参加した。

 

 左手で鞘をつかむ際には、ぐっと握るのではなく、圧をかけない程度に掌と鞘を密着させる。

 抜き付けの動作として、左手で鞘送りを行い、柄に右手がかかった瞬間に左手で鞘引きをするのだが、鞘を素早く引くことで、速さと斬撃の威力を増そうとするため、鞘を握り締めて、力いっぱいに勢いよく引こうとしていた。そのことが逆にスピードを削いでいたようだ。

 鞘を圧をかけずにそっと握り、握った手で引くのではなく、肘を後方45度に引く意識で。肘の先を後ろから引っ張られる感じ。そうすることで、鞘引きは軽く速くなる。もちろん柄にかかった右手も柄を握り締めることなく、指先がかかる程度にする。鞘引きが終わっても右手で振り回すのではなく、鞘から飛び出した切っ先を、ふっとんでいかないように右手の手の内で止める感じ。あとは胸を開いて切っ先を走らせる。

とにかく右腕は極力動かさず、左手の操作を優先する。

 ただし、これは単に右腕を使わない、とか、左腕だけ動かす、ということではなく、全身の各部を精密にバランスよく調整した結果としてこのようになる、というところを目指すのだということである。

 

 全身各部の調整ができるように、というと、これはまた長い道のりになるのだが、初心者の段階で意識しておくべき居合のコツを一言でいうなら、まずはとにかく「握らない」ということのようだ。

 

 水平の抜き付けから上段に振りかぶり斬り下ろす際にも頭上の柄は握らない。左手の指を頭上の柄にかけて、左手の重さで振り下ろす感じ。振るというより全身で落ちるのだという。それにより身体の重さも剣先に乗り斬撃の威力が増すという。

 

 刀を勢いよく抜くのに、柄も鞘も握らない。

 

 そういえば、先日、野球を見ていたら、空振りした際にバットが手を離れてスタンドまで飛んで行ったシーンを見た。もしかしたらバッティングでも、ミートの瞬間まではバットを握らない、というテクニックがあるのかもしれない。

 

 というわけで、居合の形の動きを覚える機会はいくらでもあるので、初心者のうちは、焦らずに、まずは刀の扱い方、いわゆる手の内を徹底的に身につけることが、遠回りに見えて実は近道なんだな、としみじみ思う。