冒頭で、自転車で旅をしている青年(若めの中年?)が出てきたので、それで手にした小説である。著者の作品は、映画にもなった「ちいさなおうち」を読んだことがあった。
この冒頭の自転車旅の若めの中年、が主人公というか狂言回しの役目で、大雨の中、雨宿りを乞うたのが廃業したペンション。そこに暮らす、いわくありげな3名の中高年の男女と、フィリピンからきた女の子が主な登場人物である。
まるで小説のような?スペクタクルな出来事も事件も起こりはしないが、それぞれの人生には、それぞれの起伏があり、それぞれの起伏は、出会った人によって少しは増幅されたりする。それぞれの名もない普通の人たちの、とても個人的なエピソードだが、それがそれぞれの人生を大きく揺らす。
そしてそれぞれの選択によって、それぞれの人生にどんな新たな起伏が生じるのかわからないが、すべての人物に幸あれ、と思ってしまう。
そんな感じの小説で、雨が降ってアジサイが鮮やかな、梅雨の1日を使って読了した。
正直に言おう。この小説がよかったのは、読後に振り返って思ったのだが、登場人物が少ないことだ。それでも読んでいるうちに、それぞれの登場人物に与えられた過去のエピソードや、その人にまつわる人物の名前など、ページを戻して確かめるか、それも面倒で、忘れたまま読みすすめるか、という残念なことになりはしたが、それでも読了できたのは、登場人物の少なさだ。
それと紆余曲折の数だろうか。ほどよいのである。何も起こらなければ読んでいても退屈だが、あまりにいろいろ起こりすぎても頭がついていけない。
ほどよい。けど全体的にライトで薄味、というようなものではない。読後の充実感は深く満足度は高い。
歳を取るってこういうことなのだろうが、まずは、こういう登場人物が少なく、静かだが奥深い小説を見つけよう。と思う。
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