飲み食いできなくなって主治医にも「延命治療はいたしません」と見離されながら、おばぁはんの誕生日の鯛をおすそ分けしてもらって食べてからみるみる回復して3年弱。一命はとりとめたものの、頭も体も時とともに弱り、今や食べて寝て、起きたらトイレの粗相をして、というだけの「ところかまわず排泄するぬいぐるみ」状態になっている老犬マルなのだが、年が明けて松が取れた頃から、まったく食べられなくなった。
水だけは飲みたがるが、飲んでもすぐに吐いてしまう。好きだったおやつも鼻先まで持っていっても反応しない。食べないのにひたすら歩き回る。まさに「徘徊」である。眼の焦点があってない。よたよたと揺れながらひたすら歩く。食べてないのだからじっと寝てたらいいのに、と思うのだが、憑かれたようによたよたと同じコースを徘徊している。身体を触ると、いきなり骨だ。毛量が多いから見た目ではわからなかったが、すっかり痩せてしまっている。
おばぁはんの誕生日は3月。こちらは幸いにもいたって元気で、楽しく誕生日を迎えられそうなのだが、マルは、もう、いよいよやね。おばぁはんの誕生日までは無理かも。けど、あれからがんばったね。と皆で覚悟を決めていた。
しかし、何も食べないで、歩いて歩いて歩いて、で、ぽとっと倒れて旅立つつもりなのか。それが獣の死にざまなのか。そうやって自分で自分の段取りをしているのか…。えらいなぁ。しみじみ思う。
何か食べられるものはないか、と、老犬用のミキサー食みたいな高級っぽい缶詰とか、あれこれ買ってみたがどれも反応を示さない、匂いをかぐこともしない。えー、うまそうやで、食ってみ。
という状態の中、飲めなくなってはいたが大好きだった牛乳に、絹ごし豆腐を裏ごししてペースト状にしたものを混ぜてあげてみた。そしたら反応してぺちゃぺちゃと舐めるので、しばらく豆腐と牛乳をあげていたら、わりとしっかり食べるようになり、そうこうしているうちに、豆腐と牛乳以外に、前から食べていたドッグフードも少し食べるようになってきた。
今や主食は「豆腐と牛乳のミックスジュース」。気分のいいときはサイドメニューのドッグフードもいただきます、という感じ。身体を触るとまだ痩せてはいるが、骨と皮の間にうっすらと肉だか脂肪だかを感じるようになってきた。今では好きなおやつをせがむようになり、徘徊もやめて、食って、寝て、トイレの粗相をする「ぬいぐるみ」状態にまでは戻っている。とはいえ、体調は万全ではないだろうし、なんせ高齢だし、明日のことはわからないのだが、今回に関しては、理由はわからないが、豆腐と牛乳で持ち直した。
鯛もさすがだったが、豆腐はさらに偉大だ。豆腐を食べよう。