緊急事態の中迷いはしたが、せっかくの娘の誕生日なので、感染対策をしつつ、家で食事でもしようと娘と一緒に一人暮らしをしているおばぁはんの家に行って声をかけた。
「明日誕生にだからうちに来てごはんいっしょに食べない?」
娘の呼びかけに、やけに複雑な表情を浮かべるおばぁはん。コロナの心配なのか、車で送り迎えをされるのがおっくうなのか、何なのか、その表情を見て、私も娘も困惑していたところ
「誕生日って…、私か?」
いやいやなんでや3月に85歳になったところやろ、どんだけ歳とんねん。
というツッコミが出るのに数秒の間が空くくらいの衝撃で、娘は腹を押さえ体をくの字にして笑っている。それ見ておばぁはんも爆笑している。娘が何で笑ってるのかをわかってるのかどうかは怪しい。
見分けはつきにくいが、認知症ではなく天然なのだ。
おばぁはんは、昨年の母の日にもらったカーネーションの切り花を挿し木して植木鉢の中で育てている。そのカーネーションは5月の光の中でピンクのつぼみをつけている。草花を育てる知識は豊富にあるようで、狭い庭に植木鉢を並べていろいろな植物を大事に育てている。けど天然なのだ。天然だから、この程度のボケは本人には日常で、「こんな勘違いをするようになった」という風に自信を失くしたり、落ち込んだりはしない。笑っておしまい。
こういうところは見習いたいと思う。娘も、コロナ禍の中なんとか就職先を見つけたのだが、遠方に赴任することになり引っ越しの準備などでバタバタしている。この先、実家で学生をやっているのとは違ったいろいろなしんどい体験をすると思うが、その時にはこのおばぁはんのメンタルを思い出して、笑い飛ばしながら進んでほしいと思う。