時速20キロの風

日々雑感・自転車散歩・読書・映画・変わったところで居合術など。

読書メモ 小説家になって億を稼ごう 松岡圭祐 新潮新書 2021年3月

 人気作家が売れなくなると書くのが小説指南書だとか聞いたことがある。それにしては、タイトルが弾けてるなぁ、と思って読んでみたら中身も弾けてた。

 Ⅰ部の小説家になろう編では、教科書的な内容ではなくキャラ設定から空想を広げていく作者オリジナルの方法を紹介し、細かいハウツーがふんだんに散りばめられている。それだけでなく出版社への売り込み方や編集者とのやりとりまで、たぶん他の類書には書かれないだろう実践的知識が書かれていて新鮮だ。

 

 Ⅱ部の億を稼ごう編では、デビューしたという前提から、出版社や編集者とのかかわり方や、出版ビジネスに携わる業者としての、彼らの生態や考え方をつまびらかにしながら語っていく。出版契約書を結ぶ際の注意事項や、プロモーションへの介入の仕方、サイン会でのふるまい方や自著が映像化される場合の取るべき態度などまでが、リアルに書かれている。ここいらは実際に作者が経験したことなのだろう。これを「小説家としてデビュー以来経験したことのドキュメンタリーやエッセイ」としてではなく、小説家を志望する人たちへの指南書という体裁で書いたところに作者のアイデアがある。

 読めば、小説家に対するハウツーもさることながら、出版社や映画製作の裏側が作者側からの目線で赤裸々に綴られていて、百田尚樹氏が「夢を売る男」という小説であらわにした「自費出版ビジネスの裏側暴露」にも通じるところがあって面白い。

 ほんのわずかだがかかわったことのある業界だけに、書かれていることが、作りごとでもなく、大げさにデフォルメされているわけでもなく、大なり小なり、こんなものであろうことはわかる。小説家になる気がない方も、業界の裏話として読めば興味がそそられるのではないか。

 作家や文化人がテレビに呼ばれてインタビューを受けるときの出演料の相場まで書かれていて、なるほどそんなものかと妙に納得したのであった。