夫が定年退職してしばらくたった中高年夫婦が、クロスバイク(スポーツタイプの自転車)趣味にしてサイクリングを始めました、というところから始まる話。自転車が重要な小道具として登場する小説、しかも、レースの話ではなくクロスバイクでのチャリ散歩、ということで読んでみたくなった。72歳の夫と69歳の妻、子どもは独立していてふたり暮らし。自転車にも慣れてそれなりに楽しめるようになったころ、ふとした出会いがあり物語が動き出す。
中高年夫婦にはきっとあるんだろうと思えるような小さな、しかし、リアルなエピソードが丁寧に語られる中に、異分子が侵入することで平穏な日常に小さな波が立つ。
この夫婦は、普通の人よりは裕福そうで、出来事も彼らにはさざ波程度ではあるのだが、そこを無視しても、歳を取るってことはこういうことなんだな、という思いがした。
特段良くもない。かといって、悪くもない。でも確実にいろいろなものは落ちて行っている。抗うのもみっともないが、あきらめるのはまだ嫌だ。まだ頭で理解しているくらいで実感の乏しい「老い」というものをじわっと見せてくれた。さて、どういう老いが待っているのか、どういう付き合い方ができるのか。正直、楽しみはない。怖い、怖い。だから、その話はやめておきましょうってことなのかな。「今日は」ってことは、「明後日」には、やめずに話さないといけないのかな。怖い、怖い。