本屋に行って、ぶらぶらと棚を見る。あぁ、こんな本があるのか、あの本が文庫になったのか、と発見する楽しみがある。今日はそれでえらく懐かしい本と再会した。
この表紙の絵。40年前、この絵に惹かれた。この絵を見て、この本を買い、鉄道旅にあこがれた。
そもそも、学生時代は時間はあってもお金がないので、旅に出るといえば、鉄道、それも鈍行しかなかったのだ。それに当時は周遊券というものがあって、エリア内なら普通列車が乗り放題だった。
今は「青春18きっぷ」が普通列車乗り放題として販売されているが、当時のたとえば北海道ワイド周遊券は使い勝手が大きかった。特に冬場は特急や急行でも自由席なら乗り放題になり、広大な北海道を鉄道を使って縦横に走り回れた。
この時代は、国鉄が「いい旅チャレンジ20000キロ」というキャンペーンをはっていて、国鉄全線乗りつぶしにチャレンジする若者が多くいた。「時刻表2万キロ」はそういう人たちのバイブルみたいな本だった。
で、その当時、この企画に沿ったテレビ番組もあり、そのエンディングテーマが耳に残っている。いまネットで検索したら、その詳細がわかる。日曜の10:30から放送されていたらしい。下宿で目覚めて、ベッドの上でボーっとしながら、あるいは朝食ともいえないスナック菓子を牛乳で流し込みながら見ていた記憶があったが、日曜の10:30というならそんな感じだろう。耳に残っていたエンディングのテーマ曲もyoutubeで聞くことができた。
しかしネットはすごい。こんな40年前のかすかな記憶も、正確なデータとして提示してくれる。逆にいえば、うろ覚えのまま思い出話など書いてしまうと、簡単に誤りが指摘されてしまう怖さもあるのだが。
そんな40年も前の文庫本が、重版されてピカピカの状態で書店の店頭でキャンペーンされていた。何があったんだろう。今でも商売になるくらい売れると出版社が判断したということだろうが、鉄道旅が流行るような動向があるのだろうか。
思わず手にしてしげしげと眺める。当時と全く同じイラストだ。
私自身は、時刻表を「読む」趣味には至らず、路線や特急の名前、電車の型番とか、マニアックなところにはまったくはまらず、ただひたすら、電車に乗って、ボーっと車窓を眺め、文庫のミステリーなどを読むだけのソフトな乗り鉄だった。
そうなのだ。鉄道が好き、というより、貧乏学生の分際で遠くへの長旅を楽しもうとすれば、鈍行列車の旅しか選択肢がなかったのである。
書店から帰ってきて、家の書棚を探してみたら、40年前に買った「時刻表2万キロ」があった。表紙の色はまだ褪せてなく、そのイラストを見た瞬間、そこはかとない旅情が沸き立ってくる。遠くへ行きたい、という衝動が生まれる。
コロナで毎年夏の18きっぷ旅も今年は自粛した。春休みの時期にはいけるだろうか。