時速20キロの風

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読書メモ 読後のムネアツ保証! 「夏の騎士」 百田尚樹 2019.7 新潮社

 たぶん、文学賞とかとは無縁なんだと思う。文学とか文芸とかいう世界にもなじまないんだと思う。細かいことを言えば粗もあるかもしれないし、ご都合主義的、安っぽい「お約束」の展開などという人もいるかもしれない。

 しかし、四六判254ページの本を数時間で夢中で読み切ったり、登場人物を心底応援したくなったり、出来事にはらはらしたり、にやにやしたり、むかっとしたり、考えたり、ほっとしたりしながら、読み終わって本を閉じるときには、登場人物がいとおしくなり、彼ら、彼女らの夏にほんの少しだけ寄り添った自分自身の気持ちもほっこりする、というような読書体験ができるのだ。それが読書の喜びでなくてなんなのか。まさに「大衆娯楽読み物」の王道である。

 

 作者はテレビの構成作家を長くやっていたそうだ。「探偵ナイトスクープ」といえば、下宿生の頃によく見ていて、いまでも続く長寿番組だが、その構成をされていたそうだ。だからだろうか、話の組み立てが巧みだ。そのことを、ハリウッド映画のようなパターン化された展開だという感想もあるのかもしれないが、それは作品の良し悪しではなく、読み物に何を求めるか、どういう読み物が好きか、ではないだろうか。

 読後に爽快感や長く忘れていた感情を喚起されて胸が熱くなる感覚を、こんなに手軽に手に入れていいのだろうか。

 あくまでも私にとってだが、村上春樹氏の「騎士団長殺し」、百田尚樹氏の「夏の騎士」、強引な騎士つながりで比較すると、頭で読んだ村上氏と、感情に来た百田氏、という感じだ。

 百田氏の書くものには「楽しませてやろう」という激しいサービス精神がほとばしっているように思う。作者の方が先の展開にわくわくしているのを感じた。こういうところも、バラエティ番組の構成を長らくやってきたゆえなのかもしれない。

楽しませていただいた。