時速20キロの風

日々雑感・自転車散歩・読書・映画・変わったところで居合術など。

「土下座~」からいきなり斬りつけるって、そんなんあり?な居合の話

無双直伝英信流 奥伝立業の最後の業「暇乞(いとまごい)」

 奥伝立業の部の最後に入っているのだが、正座から始まる。

 暇乞いなので、お別れのあいさつであって、「詫びろ!詫びろ!詫びろ!」からの土下座ではないが、正座して手をついて頭を下げるという動作は土下座と同じ。

 そしてこの暇乞いには、3つのパターンがある。その1は、正座して、指の先を床に着く浅いお辞儀。その2は、手のひらを床に着くお辞儀、その3は、床に平伏するまさに土下座。その体制からいきなり腰に差した刀を縦に抜き、斬り下ろす。上意討ちの業だといわれている。事情はどうあれ暗殺の業だ。しかしここにも疑問はある。お世話になりました。さようなら。と礼儀正しく手をついて暇乞いをするときに、大刀は腰に差したままか?仮に差しているとしたら脇差だろうし、脇差ならこの業もやりやすいのかもしれないが、動きはまったく違うものになるだろう。

 しかし現在の居合では、大刀を腰に差して演武する。土下座の体制から大刀を抜くのは結構難しい。というか相当に難しい。

 武術的にいうと、おこりを見せない、ということが大事になるだろう。相手に動きを悟らせない、ということなので、斬りつけようとしていることがばれてはいけない。肩が先に動いたりせずに動作しないといけない。その上で、平伏した状態から上体を起こしつつ刀身を縦に抜き斬り下ろす。その1の場合は、指先が着く程度なので、上体はほぼ起きている。少し目線を上げる程度で相手も見える。その2では、手のひらを着くので、上体は下がってくる。かなり上目使いをしないと相手は見えない。その3は、平伏しているので床しか見えないわけだから、徐々に上体を起こしながら同時に抜き斬り下ろす。上体を起こしてしまってから抜いていては相手に逃げられるだろう。それもただ鞘から刀を抜くのではなく、振りかぶって斬り下ろすわけだから、すらりと抜いただけではだめで、スパッと斬ってしまわないといけない。これを正面から見ていたら、手元が動いて、あれっ、柄に手をかけた?と思ったらヒュンと切っ先が飛んできた、という感じになる。物理的スピードではなく、マジシャンの使うトリックのような意表をつかれて感じるスピード、といった方がいいのかもしれない。トリッキーだがタネも仕掛けもなく、あるのは技術のみ。

 それにしても、この業をびしっと決めることができる居合道家はどのくらいいるんだろう。

 私はもちろんできない。道場で暇乞いを稽古するときも、お辞儀をしたら鯉口が緩んだ刀が鞘からすべりだしたりするので、ほとんどコントである。とはいえ、笑ってはもらえず、「まずは鞘の手入れをして来い」と怒られたりしたものだ。

 居合道。単純に見えて、奥が深い。