時速20キロの風

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読書メモ アイドルやめました。 大木亜希子 宝島社

 著者は、AKB48グループの中のSDN48でアイドルをしていた。今は、フリーのライターとして活動している。本書は、そんな著者が、自身と同様にAKBグループを辞めたメンバーのその後についてまとめたドキュメントである。

  2011年にAKB48は「フライングゲット」でレコード大賞を受賞する。その年の紅白歌合戦では、紅組の5番手として、AKBグループ総勢210名がNHKホールのステージを埋め尽くした。その中に著者も参加していた。youtubeで当時の映像が確認できる。AKBグループとして3曲をメドレーで歌うのだが、1曲目はAKB48の主要メンバーだけで、2曲目から続々と姉妹グループのメンバーが登場する。総勢210名がステージにひしめき、個々の顔が画面で確認できるのは、AKBの主要メンバーくらいで、姉妹グループのメンバーは、その他大勢だ。最後、全員で人文字を作って出番は終わる。

 その後、姉妹グループのメンバーは、他の出演者の邪魔にならないように荷物用のエレベーターでホールの出入り口に行き、そこからロケバスで帰路へ。著者は、その後ひとりで電車に乗り実家に向かう。22:30には、実家でジャージに着替え、年越蕎麦を食べながら、自分が出ていた紅白歌合戦の続きをテレビで見ていたそうだ。序章でそのことを知って、アイドル界の裏事情へのミーハー的興味が高まり一気に読んでしまった。

 この本には8名の元アイドルのセカンドキャリアがつづられている。それぞれアイドル時代に激しい競争の世界に身を置き、メンバー間で比較され、自尊心を砕かれ、それでもまた立ち上がってチャレンジを続ける。そして、それぞれのきっかけでアイドルを辞め、セカンドキャリアを選択するのだが、15~16の彼女らを熾烈な競争に巻き込み、過酷な体験を強いた側の目的は、金儲けなのだと思うとやりきれない思いもする。

 もちろん芸能界を目指すなら、実力以上に運にも左右されるハイリスク・ハイリターンの世界に身を置くことは承知の上であるだろうが、ここまで意図的に競争させられたケースは芸能史でも類を見ないのではないか。観客にとっては、彼女らの競争を見物することが娯楽になった。いわゆる「総選挙」の結果は、翌日の一般紙の朝刊を飾った。

 この企画、「選挙」とは名ばかりで、投票側は、金を出せば出しただけ選挙権が買える、そして、出馬しているアイドルの中で、一番金を集めたものが優勝するという、金集め大会なのであった。

 本書を読むと、アイドルを辞めた本人たちは、夢をあきらめるにいたったほろ苦い後悔が少しはあっても、未練はなく、さばさばと次の道を歩いているようだ。過酷な競争の中で自他のさまざまな感情にまみれた経験値は、同世代の若者の比ではないだろう。次の道を見つけたのであれば、アイドル時代の経験はきっと役に立つに違いない。

 それにしても、である。この過酷な競争に勝ち続け、その頂点に輝くなど栄華を誇ったAKBの主要メンバーも、今はほとんどが「卒業」と称してグループを離れている。その卒業メンバーも、芸能界にいるにもかかわらず、数名をドラマの端役で見かける以外はほとんどテレビで見ることもなくなった。渡辺麻友さんは芸能界から引退したという。少女時代に過酷な競争の世界にいたので、今はのんびりとマイペースで芸能活動をしているのか、あるいは、芸能人としての野望は人一倍あるが、グループの戦術を離れた今となっては、芸能人としての個人の商品価値に見合う活動に収まっている、ということか。

 いずれにしても、彼女らを使って、おっさんらが大儲けしたのは確かなようなので、節税などせず、たっぷりと税金を払っていただきたい。