時速20キロの風

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フェスティバルホールで中島みゆきを聞く

何で知ったのか忘れてしまったが、コロナでコンサートが中止になり、代わりに劇場版特別上映会を行うのだそうだ。要はコンサートDVDをフェスティバルホールで鑑賞するのである。1階指定席2600円。フェスティバルホールは長くこの地に住んでいながら行ったことがない。ないと思う。なので行ってみたい。なら、このくらいなら安いし空いてるし丁度いいかも、というのが動機である。実際に客席はちらほらとお客がいるだけで、見渡す限りのそのほとんどが中高年の男女である。

 演目自体は、市販されているコンサートDVDを観るだけなので、席に座っていても特に期待も緊張感もなく、フェスティバルホールの空間と席と音響を体験するだけなので、気楽なものである。DVDになっているコンサートはフェスティバルホールでも上演されたコンサートだということだ。

 で、DVDだから当然だが、画面いっぱいに中島みゆきが映し出され、歌が始まる。カットされているのだろうが、MCなどなく、どんどん歌が続く。「化粧」にいたっては、もはや演劇だ。試しに聞きなおしてみると当時のレコードの方が過剰に「泣いて」いて、コンサートではそのあたりはかなり抑制されているのに、演劇性を感じた。この人の詩の世界は削りに削った短編小説のようで、「物語を歌っている」という印象が強い。たしか共に北海道出身で、当時はニューミュージックと呼ばれていたジャンルの旗手でもあった中島みゆき松山千春は、「悪女」と「ふるさと」がそれぞれ同時期にヒットしていたように思う。

 だから、当時どちらの曲もラジオでよく耳にしたのだが、詩の世界の深みの差は、予備校生だった僕でも強く感じていた。

 さて、スクリーンからは次々に歌が披露されていく。中島みゆきなので、踊るわけでもなく、舞台上を動き回るわけでもなく、ただステージ中央で歌っているのだが、考えてみればこの人はテレビにほとんどでなかったので、歌っている姿をこんなに長く大きな画面で見たことはなかった。そういう点ですごく新鮮ではあった。圧巻だったのは、やはり「時代」で、朗々と歌い上げる以上のことは何もしていないのに、胸に迫るものがあり、これが歌の力というのもかと思った。

 今年は年末の紅白もコロナの影響で、例年のようなNHKホールからのお客を入れた生中継ではなく、各地のスタジオからのリモート参加になるかもしれないという。であれば、トリを務めるのは、やはりこの人のこの歌なんじゃないかなぁ、と思った。かつて何度か紅白に出た時もホールには来なかったので、スタジオの別撮りなら承諾するんじゃないかな。もしそうなれば、あの年は本当にたいへんだったねと笑える日が近いことをみんなで感じながら、たいへんな2020を締めくくりたい。