時速20キロの風

日々雑感・自転車散歩・読書・映画・変わったところで居合術など。

読書メモ 死の淵を見た男 門田隆将 PHP研究所

 想像を絶する巨大津波原子力発電所を襲った。予測すらしなかった全電源喪失メルトダウンは防げるのか。守るべき故郷のため、家族のため、仲間のため、名もなき男たちの命がけの闘いが始まる。

 と書けば、ハリウッドの大作映画の宣伝のようだ。つまらない用事で古巣を訪れていたOBのブルース・ウィルスあたりが巻き込まれて最前線で戦う、というような。

 しかし、このような、フィクションとしてもちょっと派手すぎないか?と思うような事態が実際に起こったのである。福島第一原発事故だ。本書は事故の直後から最前線で何が起こっていたのかを、関係者らの証言をもとに書き上げられたルポである。

 筆致は冷静で証言による事実が積み上げられていく。それぞれに葛藤があり苦悩があり絶望があり希望がある。本の中では時を追うごとに緊迫感がましていく。読む側も緊迫感につきあう。

 第二十一章でようやく泣けた。そして、この人たちの行動がなければ日本が住めない地域と住める地域で3つに分かれていたかもしれない、ということを知った。

 初版は2012年12月。震災が2011年3月11日だから、まさに直後といっていいだろう。インタビューに応じた人たちにとっても、まだ記憶が生々しい時期の証言だ。それゆえか、このルポは単なる美談や左右の政治色に偏らず、事実の迫力をもって読むものに迫ってくる。

 映画になったが、まだ観てはいない。映画は好きだし、いつかは見ようと思うが、このルポから立ち上る迫力を、テレビで見慣れた俳優たちの演技を通して感じるためには少し時間を置きたい。しばらくは、この読書体験を反芻したいと思った。